ラケットスポーツと視覚・反応時間
「見る力」はパフォーマンスをどこまで高めるのか
テニスやバドミントン、卓球といったラケットスポーツでは、「ボールをよく見る」「動体視力が重要」といった言葉がよく聞かれます。
確かに高速で移動するボールやシャトルに対応するためには、視覚機能が重要な役割を果たします。
しかし、スポーツ科学の観点から見ると、競技力を左右するのは単なる視力や動体視力だけではなく、視覚情報を処理し運動へと結びつける知覚―認知能力であると考えられています。
〇ボールに対して身体が反応するまでに何が起こっているか?
例えば、テニスのプレーで相手からのボールに対して反応するまでに
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① 相手のフォームからボール軌道を予測
② 運動プログラム準備
③ ボールを見て認識する
④ ボールの軌道・距離間を再度予測
⑤ ボールを相手へ返す
この一連の流れがサーバーのラケットからレシーバーの位置までに約0.5~1.0秒程度で起きています。
一方、人間の視覚刺激に対する単純反応時間はおよそ0.20~0.25秒とされています。そこから身体を動かしてスイング動作を行うまでにはさらに時間が必要となります。
論理的に考えると、ボールを見てから反応するだけでは間に合わない計算になりますが、熟練した選手は
- 今後の出来事を正確に予測
- 効果、効率的な視覚探索能力
に優れ、ボールをみる前に打つ姿勢や反応ができていると報告されています。
つまり、単純にボールをみて反応するだけでは間に合わないことがわかります。では、この”予測や反応の速さ”はトレーニングによって高めることができるのでしょうか。
〇視覚能力を高めるビジョントレーニングによってパフォーマンスはどこまであがるのか?
こうした背景から近年は「ビジョントレーニング」と呼ばれる視覚能力のトレーニングにも注目が集まっており、ビジョントレーニングという言葉を聞いた事がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ビジョントレーニングとは、見る力を高め、見たものや自分の体の動きを正しく認識したり(ボディーイメージ)、体を自分のイメージ通りに動かしたりする(ボディーコントロール)機能を高めるトレーニングです。(ビジョントレーニング協会より引用)
ビジョントレーニングの主な種類として
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① 入力機能:視力・ピントを合わせる調節機能や眼球運動で対象をとらえる
② 情報処理機能:目でとらえたものが脳へ送られ認識し処理される機能
③ 出力機能:目で見たものを理解、認知し手や身体を適切に動かす
があり、主に3つのトレーニングをしていく中で視覚機能・反応時間の改善が報告されています。
しかし、これらのトレーニングが直接的に競技パフォーマンスを向上させるかについては、研究結果は必ずしも一致していません。スポーツにおける判断は、視覚機能だけでなく、運動経験、戦術理解、身体能力など、視覚以外の多くの要素が複合的に関与するためです。
そのため近年では、視覚能力だけを単独で鍛えるのではなく、実際の競技動作の中で視覚と運動を統合的にトレーニングすることの重要性が指摘されています。
〇では、結局ラケット競技において本当に鍛えるべき力とはなんでしょうか?
ラケットスポーツにおいて「目の能力」は確かに重要な要素だと思います。
しかし本当に重要なのは、単にボールを見る力ではなく、視覚情報を素早く解釈し適切な行動へと結びつける知覚―認知能力であると考えます。
ビジョントレーニングを補助的に活用しながら、身体と動きをつなげるための予測力と反応力を鍛えることでプレーも各段によくなっていくことでしょう。
執筆者
池尻大橋せらクリニック 理学療法士 中山 みのり
監修
池尻大橋せらクリニック 医師 世良 泰
池尻大橋せらクリニック