テニスやゴルフなどを趣味にしている方、あるいは健康のために体を動かしている方は、ふと「最近、安静時の脈が少し遅くなったかも」「以前より疲れにくくなった」と感じたことはありませんか?
それは、もしかすると「スポーツ心臓」と呼ばれる、運動による生理的適応のひとつ。言い換えれば、「心臓からの前向きな変化のサイン」かもしれません。
本コラムでは、スポーツ心臓の概要から、体にどのような変化が起きているのか、そして最近の研究知見までを解説していきます。
〇スポーツ心臓とは?
スポーツ心臓とは、長期的な運動習慣によって心臓の構造や働きが変化し、より効率よく血液を送り出せるようになる状態を指します。
これは病気ではなく、医学的にも「生理的な適応(Physiological Adaptation)」とされている変化です。
〇スポーツ心臓はどのような生理的変化が起きている?
具体的には、次のような変化が現れることがあります:
- 左心室(および時には右心室)の内部腔拡大
- 壁(筋肉)の厚さの適度な増加
- 拡張期機能(血液を受け入れる能力)の維持または改善
- 安静時心拍数の低下(徐脈傾向)
また、運動のタイプにより心臓の変化に特徴があります。
長距離走などの持久系運動では「ポンプの容量」が大きくなり(左心室拡大)、筋トレ系では「ポンプの圧力」が強くなります(壁肥厚)。
つまり、このような変化は、あなたの心臓が運動に順応し、「より無駄なく働ける状態」に変わってきていることを示す“変化のサイン”と捉えられます。
〇最新の研究でも注目される「運動と心臓の適応」
近年の研究でも、適度な運動習慣による心臓の変化が多く報告されています。
2024年に発表された欧州循環器学会(European Society of Cardiology, ESC)のガイドラインでは、長期間の運動を続けている人の心臓では
「拡張機能(血液をためる力)」や「拍出量(送り出す力)」が向上し、心血管リスクの低下にもつながる可能性が示されています。
さらに、競技プレー中のパフォーマンス維持や運動後の疲労回復も早いことが報告されています。
〇病気との違いを知ることも大切
スポーツ心臓は“健康な変化”ではあるものの、すべての心臓の変化が安心というわけではありません。
たとえば肥大型心筋症のような心臓の病気も、心肥大という点では見た目が似た変化を示すことがあります。
大きな違いは、スポーツ心臓の変化は「トレーニングをやめると少しずつ元に戻る」という点です。
また、自覚症状がないことも特徴です。
一方で、動悸や息切れ、運動中の胸痛、失神といった症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
〇まとめ
スポーツ心臓は、長く運動を続けてきた人の心臓にあらわれる「いい変化」のひとつです。
心臓の機能が高まり、より少ない負担で体を動かせるようになります。
これは、スポーツなどの趣味を長く楽しむうえで、大きな“味方”になる変化といえるでしょう。
一方で、体の状態をきちんと理解し、適度な運動と定期的なメディカルチェックを続けることが、安心してプレーを楽しむための鍵です。
自分の体とうまく付き合いながら、健康的なスポーツライフを育てていきましょう!
執筆者
池尻大橋せらクリニック 理学療法士 髙橋 遼
監修
池尻大橋せらクリニック 医師 世良 泰
池尻大橋せらクリニック