スポーツを楽しむ中で「子どもの頃から運動神経が悪い」と感じたり、「大人になってからはもう伸びない」と思い込む人もいます。
確かに神経系には発達しやすい時期があり、アメリカの医学者スキャモンの「発達曲線」で説明されるように、幼少期に大きく成長します。
しかし一般的に“運動神経”と呼ばれているものは「神経そのもの」ではなく、身体を効率よく動かすための力を含んだ「運動能力」を指すことが多いのです。
運動能力は運動神経だけで決まるのではなく、筋力や柔軟性、経験など多くの要素が関わっています。
そのためピークは成人期以降にあり、練習や習慣によって今からでも十分に高めることができます。
本コラムでは神経発達のピークや運動能力の考え方を研究も交えて解説します。

〇スキャモンの発達曲線における神経型の特徴と黄金期について

出生から5歳までの急成長
スキャモンの発達曲線は「一般型・神経型・リンパ型・生殖型」の4つに分類されます。神経型に関わる脳は、出生時に成人の約25%ですが、2歳で50%、6歳で90%に達するなど急速に成長します。

6~12歳でほぼ完成
神経系は小学校入学前までに大きく発達し、12歳頃に成人水準へ近づきます。この時期は「黄金期」と呼ばれ、走る・跳ぶなどの基本動作習得が重要で、経験不足は後の動作習得に影響するとされています。

〇大人になってからではもう手遅れ?

神経系の発達は子ども時代に進みますが、それだけが運動能力を決めません。
筋肉や骨格は思春期以降に成長し、18〜26歳でピークを迎え持久力や技術、戦術理解やメンタルは大人になっても磨ける総合的な力です。

〇運動能力のピークは年齢や競技の種類によって異なる

  • 短距離走・体操:20歳前後にピーク
  • テニス:25~30歳頃にピーク
  • ゴルフ:30~35歳頃にピーク

つまり、ピークの「年齢の幅」や「表れ方」は、競技特性や個人差によって大きく変わるのです。

〇ピークを過ぎると衰える一方なの?

答えは「NO」です。加齢により身体機能は低下しますが、その速度は生活習慣で大きく変わります。

  • 定期的に運動する人は40代以降も能力を維持できる(Sholeh et al.2022)
  • 高齢者でも練習すれば新しい動作を習得可能(Seidler et al.2007)

ピークはあくまで目安であり、その後も成長の余地はあります。

〇まとめ

運動神経は12歳前後で成人水準に達しますが、運動能力は体力・技術・心理が組み合わさった総合力です。
子どもの経験は土台となりますが、大人になってからも筋力や持久力、技術や戦術理解は磨けます。
スポーツは運動神経の黄金期を過ぎても、努力や習慣で運動能力を伸ばしていけるものです。
コツコツと練習を重ねながら、楽しんでスポーツを続けていきましょう!

執筆者
池尻大橋せらクリニック 理学療法士 石塚 智規
監修
池尻大橋せらクリニック 医師 世良 泰
池尻大橋せらクリニック